大根と王妃のバレンタインディー
今日はバレンタインデー。
王都だけでなく、王宮の至る所でもチョコのやりとりが行われる日。
モテる男性ならばウハウハだが、そうでない男性にとっては抹消してしまう事を切に願うだろう行事。
また、モテても本命から貰えず涙を飲むモテ男もきっといる筈だ。
そんな中――
「果竪、今日はチョコレートをあげる日であって大根を渡す日ではないのよ」
果竪がラッピングしようとする白い物体に明燐は頬を引きつらせた。
バレンタインデーに王に何もあげない果竪を他の侍女達と共に苦労して説得したというのに、作ったものが大根?
「いや、大根じゃないって」
果竪はそうのたまった。
その瞬間、明燐の瞳がクワッと見開かれる。
「大根じゃない?ですってぇ?!」
どの口でそんな事を言う!
生茂る緑の葉、白い実、細かな根の部分までどう見たって大根だろう。
しかもほっそりとしつつも、肉付きのよい新鮮な代物だ。
「ああっ!まさか今日この日に大根を渡そうとするなんてっ!」
「だから大根じゃないって、中身は」
「――は?」
聞き捨てならない言葉に首を傾げると、果竪は近くの冷蔵庫から何かを取り出した。
大根
それをバキンっと真っ二つに割り、片方を明燐へと差し出した。
「………丸かじりしろと?」
「半分だから丸かじりじゃないし」
そう言うと、果竪はもう半分に齧り付く。
すぐに異変に気付いた。
瑞々しい大根は歯ごたえもいい。
しかし、果竪の齧り付いた時、何の音もしない。
しかも――なんだろう、この甘い匂いは
明燐は渡された大根を見た。
「………………………」
取り敢ず囓ってみた明燐だったが、口一杯に広がった甘みに目を丸くする。
こ、この味は――!!
「こ、これチョコ?!」
「ピンポ〜〜ン!」
白い実はホワイトチョコで、葉っぱの部分は抹茶チョコで再現した大根チョコ。
見た目はそれこそ、細部に至ってまで大根そっくり、食べなければ見分けが付かないをコンセプトに作り上げた、
大根LOVEの者達にとって垂涎物のチョコレートだった。
「ふっ!このチョコをつくる為に私は1週間徹夜したわ」
「す、凄いわ………激しくくだらないけど、逆にくだらなすぎて凄すぎますわ」
「って事で萩波にあげて来よう〜〜」
リボンで綺麗に装飾すると、果竪は大根チョコを持って部屋を後にしたのだった。
王を別として、多くの官吏武官達が、果竪がもって来たチョコレートを明燐と同じく大根と勘違いするまで後十分――。