果堅とチヒロが出会ったら。
こんな、夢を見た。
一回見たら大根に頬摺りしたくなる夢だった。凄い愛を感じた。・・・大根に。
青空の下、見渡す限りの緑の草原。・・・でも大根葉。
風に揺れるみどり。誘っているようだ。・・・でも大根葉。
きっとあのみずみずしい葉の根元には、白く輝く優美な肢体が埋っている!と確信できた。・・・大根なだけに。
その魅力に抗えずにふらふらと近寄ったら・・・。
捕獲された。
「捕まえたー!・・・大根泥っ・・・あら?」
真ん丸い目を更に丸くして、青みがかった黒い髪、勿忘草色の瞳の少女が、捕り物網を手に、硬直していた。
大根泥棒かと思ったのにーとか何とか呟きつつ、網もつ手をもじもじさせている。
「「あ、えと。は・・・はじめまして・・・?」」
・・・はもった。
いいのか、それで。と、チヒロはちょっとだけ自分に突っ込みたくなった。
網越しの邂逅・・・いいのか、本当に。・・・うん?
「へー。チヒロちゃんは、夢で迷子になったのかー」
少女の名前は果堅。天界十三世界のひとつ、炎水界の大国凪国の出身なんだって。
自己紹介しつつ、現状確認。
「ここ見覚えあります!うん。夢で見たあの時は、光る人がいたんですよー」
今日は、光る人じゃなくて、果堅ちゃんだけど。
「へえ。光なら、高位の魂だね。もう天界行き間違いなし!」
ああ、そうだ狭間の世界だ。
「ここ、狭間の世界ですよね?前は、光っているだけでこんな見事な畑なんかなかった・・・」
その台詞に果堅ちゃんが、きらん!と目を輝かせた!
「・・・見事な畑って・・・見事な畑って言った?言ったわよね!?やはり、大根は万国共通の、友好野菜よね!意気投合もしやすい万能野菜のホープ!」
万能野菜は納得!
「あ、おでん美味しいですよねー」
にっこり笑って、夢にまで見たおでんを思い出す。ことこと煮込んだ、魅惑のスープ。
ああ、食べたい・・・。
「じっくりたっぷり、含ませたおつゆが良いのよね!そそるわ!」
・・・なんだか息が荒いよ、果堅ちゃん。頬が赤い。
それよりも、なんだろ、その、恋するオトメ的な、跪いて両手を組んで祈る格好は?
なにに祈り捧げてるの?
大根?大根に祈りささげちゃうの?
あ、でも。祈りたい気持ちも分かるよ・・・。もうかれこれ二年は大根食べてない。それどころか、激辛以外の胃に優しい食材も皆無だし。
夢にまで見たおでん。
鰹だしに、魅惑の醤油。がんもに、さつま揚げに、竹輪にこんにゃく。玉子・・・そしてメインは分厚く切った、大根よ!
「・・・おでんに飽きたら(飽きないけどね!確信できる。泣きながら完食するよ、間違いなく!)家のお母さんは、じっくりおつゆのしみこんだ大根を、ご
ま油で焼くんですよー。もう、良い色がつくまで!こうばしい香りと、しみこんだおつゆが、じわあ〜って良い味出すんです・・・」
大根ステーキ。おかあさあん。
いかん。よだれが出てきた。
こそっと、口元を拭っていたら、隣で果堅ちゃんも口元を拭っていた。
えへへって笑いあった。
夢での逢瀬。繰り返す。出会う日もあれば出会わない日もあった。
私の日常と果堅ちゃんの日常は違う世界。なのに、結構、気があった。
この世界には大根がないんだよって言ったら、この世の終わりとばかりに嘆かれた。慰めるのに苦労した。
現実世界に持っていけるか分からないよ、って断ったけど、果堅ちゃんが私に握らせてくれたのは、大根の種。
「私の神生かけて改良に改良を重ねた、どんな僻地でも、荒地でも、必ず芽が出る、優良品種!魅惑の肢体は白く輝かんばかりのナイスバディ!一口口に含め
ば、至高の世界へ誘ってくれる事、請け合い!夢に見るその魅惑のボディに、いつしか子宮が疼き、熱く蕩けるようになるわよ!!!」
・・・果堅ちゃん、いくらわたしでも大根に子宮は疼かないよ・・・食欲は湧くけど。
そんな、ある日の夢から覚めて、掌に握りしめてた種に気付いて、驚いた。
土の国の技術さんを総動員して、必ず芽を出させて見せる、必ず収穫してみせる、と意気込んで作った、土の国の大根畑。
畳一畳分の小さな畑。
植えた種は6粒。
芽が出て、嬉しさの余り泣き出した。
「結婚してるの」
果堅が、話してくれたことは。
戦災孤児だった果堅を保護してくれた人は、とてもとても優秀で、周りにいる人たちも有能で。
平凡(かわいいよ?)な自分が彼らの側に、なぜいるのか、と陰口叩かれた事。
保護してくれた人が同情で(???)妻にしてくれたこと。強く美しく有能なその人は、功績を認められて一国の王になった事。
「・・・私を娶っていたから、そのまま私が王妃になってしまったの」
果堅は悲しそうだった。
同情で妻になんかしないよ?大丈夫、その人果堅のこと好きだよ!って言ったら。
「・・・だってもう、寵妃いるし。私より綺麗で可愛くて守ってあげたいからって、友達もみんな」
・・・寵妃のところへ行っちゃった。
軽い言葉で、重い事をさりげなく言い切るなんて、凄すぎるよ、果堅・・・!
そのあとはどうにかして元気付けようと頑張ったんだけど、あんまりうまくいかなかった。
大根に縋りついて頬擦りしている果堅を、複雑な思いで見ていた。
大根は白い。潔いくらいに白い。
果堅のだんなさまは、雪のように真っ白な綺麗な髪をしているんだって。
「雪」と言おうか「大根」と言おうか、迷ってたよね?果堅の大好きな大根話は、ものすごく濃くて、深い愛情を覚えるの。果堅の話を聞けば聞くほど。
・・・「萩波」と言う人を思い浮かべる。
果堅。萩波さんが好きなんだねぇ・・・。
・・・ってかさ。好きな人を大根に置き換えるその精神力。どうにかしようよ。
頬擦りはさー、是非、本人にしたほうが良いと思うよ・・・。
でもね。話を聞いてたら、だんだん怪しい話になってきた。
「初めて?は・・・初めて!?」
おろおろした。だってさ、は・・・初めてなのに、私の始めては、その。その・・・。
「さ・・・三人に美味しく頂かれましたぁっ!」
ごめんなさいーって頭下げる。節操なしな身体がいけないの。断れなかったと言うか・・・と、焦って言い訳していたら。凄く可哀想な目で見られた。
「・・・初めてで三人なんて、壊れなかった?大怪我したでしょ?・・・私だって十二歳なのにさ、あんな大きくて硬いもの捻じ込まれたんだもんね。痛く
て、裂けたもの・・・」
「え・・・。さ・・・裂け・・・いや待て、わたし!・・・じゅっ・・・十二いいいっ!!!十二歳だったの?!!!」
「うん。あんな異物突っ込まれて!しかも、痛くて痛くて、止めてって言っているのに、止めてくれなくて。しかも、しかも・・・出し入れするんだよ!信じ
られない!」
握りこぶしも勇ましく、言い募るは、最悪の・・・初夜。
・・・・・・。
・・・・・・それは、ひどい。スプラッタムービーなんか、目じゃないね。あの痛みを、十二歳で?
ひどすぎる。
ってか。
十二歳に捻じ込むなんて、どこの鬼畜だあああああっ!!!!!
ああ、なんだか。むぎゅっと果堅を抱きしめた。
苦労したんだね。
そんなロリコンで、ロリコンで、ロリコンで、少女趣味の変態に言い寄られて!処女まで奪われて!
なんか、腹が立ってきた。
腹が立ってきたぞおおっ!!!
決めた。
「・・・しばく・・・」
「は?」
「しばいてくる!ちょっと凪国行って、その萩波って人、しばいてくるっ!!!」
「ちいちゃ・・・」
がばっと立ち上がって、はたと気付いた。
「あ。でも、どうやったら凪国行けるの?」
神様の国なんだもんねー・・・。凡人にゃ、無理でしょー・・・。
よし。では、改めて。
「今度連れて来て!一回しばき倒すからっ!」
目を丸くしている果堅に無理やり約束させて、夢が覚めたら、今度は。
腕を捲り上げた。いよーしっ!
せっせと、紙を折るチヒロをナマヌルイ目で見つめたオウランが、よせば良いのに、声をかけた。
「・・・あー・・・。チヒロ。何、作っているんだ?」
「ハリセン!」
簡潔に答えたチヒロを前に、どう受ければ良いのか苦悶するオウランの姿があったという・・・。
・・・・・・思考停止中・・・・・・
なんで、ハリセンなんだ。とか。
誰に、使うつもりなんだ。とか。
いろんな考えがぐるぐるしたオウランだった。
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