蒼空と蒼海の交わるとき/始まり05(那木&椎木視点)
産まれた時からずっと一緒
互いだけが唯一の存在
那木と椎木
那木は兄、椎木は弟
ぼくはお兄ちゃん
ぼくは弟
瑠水姉様と空嵯、そして洪凛を除けばぼく達にあるのは互いの存在だけ
それ以外は何もない
誰からも必要とされない
あの日までは
「ねぇ、椎木」
「ねぇ、那木」
ぼくらは何時ものように二人で行動していた。
そっくりな顔に体つき。
ぼく達が二人並べばどちらがどちらか見分けられるものは圧倒的に少なくなる。
瑠水姉様と空嵯、洪凛の他には誰もいない。
けれど、この学校に入ってからは少し違った。
ぼく達が通う天桜学園はこの鎮守郷でも第2位の地位と歴史を誇る名門エスカレーター式の学校だった。
毎年倍率が馬鹿みたく高く入るのは至難の業。
その分学生には優しい幾つもの制度を始め、きちんとした教育のもと多くの著名人を卒業生として輩出する学校でもある。
そこにぼく達は幼稚部から入学した。
勿論、この頭脳と外面の良さを持ってすれば合格は簡単だった。
面接をしてくれたこの学園の学校長はかなり曲者だったけど、長い間を経れば好感にかわった。
そんな学校長はぼく達を見分けた相手の一人だ。
どっちがどっち?
そう質問して見事に学校長はぼく達を見分けた。
でも、それは初等科に入ってから。
初等科に入ってからは結構ぼく達を見分けた相手は居た。
蒼麗や聖を初め、陰宮クラスの生徒達の大半は見分けてしまった。
陰宮クラスって?
それはまた後ほど説明するとしよう。
けど、彼らよりも早く、彼らよりもきっぱりはっきりとぼく達を見分けた相手が居た。
そう・・・只の一度も間違えることなく
『あんたが那木、あんたが椎木』
きちんと目を見て
きちんとぼく達自身を見てそう言った
天桜学園中等科1年陰宮の教室に二人して飛び込むや否や口を揃えて囃し立てた。
「や〜〜い」
「お〜〜い」
「「醜女の登場だぁ!」」
「くたばれぇ!!」
そんな叫び声と共に顎に衝撃を受けたぼく達。
視界が一気に天井を映し出す。
うん、今日もいいパンチだ華依璃vv
どんな時でもどんな場合でもぼく達をきちんと見分ける華依璃にちょっかいをかけるのはもはや日課となっていた。
おかげで陰宮の生徒達はぼく達と華依璃のやりとりを苦笑しながら見守っていた。
普通なら苛めとしか思えないぼく達の所行の裏にあるものを感じ取っているのだろう。
特に格闘好きの生徒達が華依璃に声援を送る。
けどそれらは全て逆効果となり笑顔で脅されていた。
標準体型+20sという巨体。
この学園一太い体を持つと言っても過言ではない華依璃はまあ色々な呼び名がある。
豚とかデブとか。この前なんてボンレスハムと陰口をたたかれていた。
因みにそれを言った奴らはぼく達がボコったけど。
そんな華依璃は容姿も非常に優れていなかった。
といっても、周囲が言うほどのものではないと思う。
濃い雀斑が鼻に散り、肌も浅黒い。
けど、そんなものは手入れをすれば何とでもなる。
造形美自体はそんなに悪くはないのだから。
けれど華依璃はそれには全く気づかず自分の事をさえない存在だと思っているのをぼく達は知っている。
その原因も周囲が必要以上に馬鹿にし罵倒し誹謗中傷するから。
まあ、ぼく達も華依璃を醜女とか何とか言って馬鹿にしてるけど。
でも、他の奴らとは違ってそこには親愛の情も含んでいる。
華依璃には今だ伝わらず、伝える気もないがそれだけは確かだった。
そんなぼく達と華依璃の出会いは幼稚部の時だ。
初めて出会った入園式の日。
子役モデルも顔負けの可愛い子が揃う中、まるで場違いの如く華依璃が居た。
一際美人ではなく、誰もが引くほどのブサイクな顔をして。
正直なぼく達はついつい言ってしまった。
「「ブス」」
それは3日前に見た昼ドラにて覚えた言葉だ。
まさか此処で使うとは思っていなかったが取り敢ず使った。
その時はこれ以上ないほどピッタリだと思ったから。
当然、そんな言葉をぶつけられた華依璃は泣くと思っていた。
女の子なんてそんなもんだと思っていたから。
けど、華依璃は泣くどころかぼく達を殴り飛ばしてきた。
今でも思い出せる見事な右アッパー。
初めてぼく達は地面とお友達になった。
その後、ぼく達と華依璃は違うクラスになったが何かにつけてちょっかいをかけにいった。
華依璃の姿を探し出し、思いつくままに「ブス」「醜女」「今日もいい脂ののり具合だな」とか言いながら。
因みにこんなのは序の口だった。思いつくままあらゆる単語を並べ立てた。
これだけを聞けば完全に苛めなのは言うまでもないだろう。
実際どう見たって苛め以外には見えない。
でも、本当は別に苛めようとしたのではなく、ただ何と言って話かければいいか分からなかったのだ。
はっきりいってまず第一声を間違えたぼく達。
華依璃はぶすと言ったぼく達を毛嫌いしていた。
顔を見れば逃げ出す始末。
その時に謝れば良かったのだがぼく達にもプライドがあった。
いや違う。
謝り方が分からなかったのだ。
そもそも謝るという事すら満足にしたことがないのだから。
華依璃と出会うまでぼく達の周りに人はいなかった。
瑠水姉様と空嵯、洪凛を除けば誰もいない。
母様に拒絶されたぼく達は家の者達からすれば厄介者でしかなかったから。
なんていうんだろう?空気みたいな存在?
当然、そんなぼく達と遊ぶ子はいない。
人との付き合いなんて分からなかった。必要なかった。
当然、どう話かければ華依璃が第一印象最悪のぼく達を見てくれるのか分からなかった。
分からないまま月日が流れた。
だからそんなぼく達の行動が後に他の奴らを煽り華依璃を苛めるきっかけになるなんて知らなかったのだ。
そうしてぼく達は幾つも間違った事をした。
その言葉が、行動がどんな結果をもたらすのかも考えず。
ただただ華依璃の注意を引くことだけを考えた。
はっきり言って、華依璃が今苛められる原因の8割ほどはぼく達のせいだと言ってもいい。
気づけばぼく達は園児の中でもリーダー的な存在だった。
そんなぼく達が端から見れば苛めている相手にしか見えない華依璃は他の奴らにとっても格好の苛めの対象と
なるのは言うまでもない。
けど、そんな事を考えつかず、無知なぼく達はただただ思いつくままに口から言葉を吐き華依璃を追いかけた。
今思えば今以上に酷いことばかり言っていた気がする。
それに落とし穴を掘って嵌めたり、靴を隠したり、鞄を取って逃げたりなどなど。
所謂最低な園児だった事はぼく達も全力で認める。
一方、華依璃も非常に迷惑がって逃げ回っていたけど、逃げ切れなくなると応戦してきた。
それはぼく達にとっては驚きの連続であり、とても楽しかった。
他の人達とは違い、華依璃は常にぼく達を見ていた。
誰かの代わりとしてこの世に生を受け
その代わりにもなれずに存在すら忘れ去られたぼく達にとって
ぼく達自身を見てくれる相手は瑠水姉様達しか居なかったから
だから、そんな大切な瑠水姉様をお祝いするパーティーの招待状を渡そうとしたにも関わらず、華依璃が拒否したのは腹が立った。
けど、すぐに理性が囁いた。
今まで華依璃に酷いことばかりしてきた報いだと。
はっきり言ってぼく達なら絶対に行かないし。
ああ、道のりは長い。
「ねぇ?どうする?」
「勿論受取らせる」
パーティーの招待状を受取らずに教室の外に出て行ってしまった華依璃を見送りながらぼく達は互いに作戦を練った。
そんなぼく達を蒼麗が頭の痛みを堪えるように見る。
「二人とも、そんなに意地悪ばかりしてると華依璃ちゃんに嫌われるよ」
「「それが?」」
嫌われるも何も、ぼく達のやっている事からすればそれも当然だ。
寧ろ嫌われていない方がおかしい。
悪戯、からかい、悪口。
最低な行為である苛めにしか見えないだろう。
でなくとも、華依璃が今も馬鹿にされ苛められる原因を作ったのはぼく達なのだし。
でも、意地っ張りなぼく達は蒼麗に対してもその意地を貫いた。
「華依璃はぼく達の玩具だもの」
「玩具に好き嫌いはないよ」
「あのね」
蒼麗が少し怒ったように眉をひそめる。
ああ、これはまずいな。
蒼麗は怒ると怖い。
「華依璃ちゃんは華依璃ちゃんであって玩具じゃないの」
「「ぼく達にとっては玩具だよ」」
本当は違う。絶対違う。
華依璃は玩具じゃない。
でも、ぼく達はそう言った。
例え相手が蒼麗でも、感づき始めてはいても、それを人に知られたくない。
ぼく達を見てくれた華依璃
ぼく達を見かねてお弁当を作ってくれた華依璃
ぼく達が何かすれば本気で怒ってくれる華依璃
ぼく達が華依璃に向けるその感情をぼく達はもう知っている。
幼い頃から今まで追いかけ回してきたぼく達の原動力となるその感情の内容を。
だからこそ、他人に知られたくない。
「那木」
「椎木」
ぼく達は互いに視線を交わして笑った。
「「さあ、ゲームの始まりだ」」
クリアの条件は華依璃がパーティー出席を認めること。
次の日から早速ゲームが始まった。
ルールはどんな手段を用いてもいい。
という風にしたかったけど、蒼麗と聖に思い切り釘を刺された。
蒼麗と聖は華依璃にとって一番仲の良い友人だ。
特に聖はこの学校の『女王』であり、生徒会長である。
幾らぼく達でも正面切って戦える相手ではない。
まあ、戦う気もないけど。
何だかんだ言って聖とは協定を結んでるし。
所謂共同戦線相手?
だから休み時間や放課後に猛アタックする事に決めた。
これなら蒼麗と聖も何も言わなかった。
けれど華依璃も考えているらしく、休み時間や放課後にはあの手この手で逃げ回ってくれた。
招待状だけは受取らせてから3日目などはぼく達を置いてさっさと購買へと行ってしまったのだった。
せっかく聖は生徒会で蒼麗も部活で側に居ないという攻め時だったというのに。
「でも、諦めない」
「だよね〜〜」
ああ、ぼく達ってなんて健気
陰宮の学生達からの応援も受けながらぼく達は華依璃を追いかけた。
そして見たくもないものを見てしまった。
「「葎・・・」」
相変わらず大勢のファンを引き連れたムカツク男がそこに居た。
葎――本名を騎馬 葎という彼は、天桜学園中等科3年の天宮クラスの先輩だ。
といってもぼく達にとっては忌々しい奴。
あいつはぼく達が来るまではこの学園で最も女子生徒に人気のある男子生徒のトップに居たらしい。
なのにぼく達が現れてから奴は3位に転落した。
つまりその程度の奴という事だ。
本物であればぼく達が現れたぐらいでトップから転げ落ちることはない。
なのに、あいつはぼく達を逆恨みし、ことある毎に嫌がらせをしてくる。
表向きは甘いマスクをした王子様だというのに。
特に卑怯な手を使うのが大好きなあいつは聖を狙っているという。
それを聞いた時には思わず鼻で笑ってしまった。
聖が相手をするはずがない。
聖にはぼく達ですら認めざるを得ないほど素晴らしい許嫁が居る。
前に遠くから見たことがあるが、はっきりいってとても良く出来た人だ。
将来なるとしたら、空嵯か聖の許嫁みたいな男になりたいと思う。
実際、聖は葎など全く歯牙にかけなかった。
聖はこの学園の女王。
才色兼備であり、聖を狙う男は多い。
そもそも、許嫁が居ると知ってもその数は減るどころか増す一方なのだから。
中には強引に事を進めようとする者もいる。
葎もそんなタイプだ。
優しく紳士的な表の顔。
けれどその本性は卑怯で狡猾で陰険、我儘で自己中で高慢な最低やろうだ。
自分が欲しいと思ったものはどんな手を使ってでも手に入れる。
この男に泣かされてきた女も数多くいた。
なのに、そんな最悪男に華依璃は恋してる!!
あの最悪男と華依璃の出会いは、華依璃が先輩達にリンチされていた時だ。
それを葎は助け、あっという間に華依璃の白馬の王子になったのだ。
けどぼく達は知ってる。
あれは葎が仕組んだものだと。
聖と仲の良い華依璃の信頼を得る為にわざと自分のファンに華依璃を襲わせたのだ。
聖には隙がないが、華依璃は隙がありまくり。
それを利用したのだ。自分が聖を手に入れる為の駒として。
危惧した通り、華依璃は葎からプレゼントやら手紙を渡すように言われる事が多かった。
勿論断ればそれでいいのだが、葎に恋をしてしまっている華依璃は素直に聖に渡す。
そのことで何度聖から相談を受けたか。
聖は華依璃を気に入っている。
だから普通なら縁切りものである華依璃の行動も聖にとっては頭痛のタネでありながら、怒りは全て葎へと向かっていた。
そもそも葎が全て悪いのだ。
何も知らない華依璃を巻き込み、その恋心を利用している。
華依璃も最近はそれに気づき初めているらしく、時折悩んでいる姿があった。
それにぼく達はほくそ笑んだ。華依璃もようやくあの男の本性を気づき始めたのだと。
でも、本当は違った。
華依璃はかなり初めの方で気づき始めていたと蒼麗は言った。
何度か葎を説得しようとしたが、その度に押し切られたと。
聖には許嫁がいると言っても葎は華依璃に強引に手紙やプレゼントを届けさせる。
本当はとても悩んでいた。
それに気づけなかった時、ぼく達は一体華依璃の何を見ていたのだろうと思った。
華依璃も悩んでいたのだ。
傷ついて、恋心と聖への友情の狭間で。
なのに、華依璃は葎を思い切れない。
未だに葎の前に立つと頬を染め、その姿は正しく恋する乙女。
利用されていると分かっていても、それでも思わずには居られない。
華依璃にそこまで思われている葎を
なのに華依璃を自分の私欲のために利用する葎に憎悪さえ抱いた
元々どうでも良かった小物が今ではぼく達の抹殺リスト第一位にランクインしていた
あんな男の為に華依璃が悲しむ必要はない
あんな男が華依璃の心を占めるのは許せない
あんな男に意識を傾ける華依璃が酷く腹立たしい
華依璃はぼく達だけを見ていればいいのにっ!!
まるで小さな子が母親を取られて拗ねるかのような気持ちのまま、ぼく達は憎い男と
華依璃の話す様子を物陰から観察した。
あの男はまた性懲りもなく華依璃に手紙を渡した。
だけではなく、華依璃にプレゼントまで渡した。
いや、プレゼントとなんかじゃない。
少し反抗的な犬を宥める為の餌のようにあいつは華依璃に渡したのだ。
それにぼく達は知ってる。あの手鏡は葎が他の女からプレゼントされたものだ。
ふざけるにも程がある。
けど、素直な華依璃はその事に喜び、嘘くさい笑顔で囁かれた好きという言葉に
感極まったような顔をしていた。
さっきまでの憂いの表情はどうした?
聖への友情はどうした?
今すぐ手に持っているあの男の手紙なんて捨ててしまえ!!
面白くない
とっても面白くない
あの男が心底ムカツクっ!!
そうして華依璃がどんな顔をしているのかも見ずにさっさとファンを引き連れて立ち去っていった。
「どうする?」
「勿論ボコだよvv」
今は無理でも何時か絶対にやってやる。
わき上がる殺意はもはや消しようがなかった。
そんな殺意が爆発したのは、華依璃が葎とその仲間によってボコボコにされていたのを見た時だ。
華依璃に葎の本性を見せつける為にずっと黙っていたけど、流石のぼく達も我慢出来なくなった。
一緒に居た聖と蒼麗はもはや腸が煮えくりかえっているらしく、顔を真っ赤にしている。
そうしてぼく達は葎の秀麗な顔に拳をめり込ませた。
息もぴったりタイミングバッチしvv
綺麗に倒れた葎をぼく達は踏みつけた。
思い切り、今までの怒りと憎悪、殺意を込めて。
聖を輪姦する計画を立てていた事
それで聖を脅して自分のものにしようとした事
蒼麗を見下していたこと
それらも腹立たしかったけど何より一番むかついたのは
華依璃の恋心をもてあそんだ末暴力の限りを尽くしたこと
誰一人として生きて返す気はなかった
家の権力を使ってでもいい
こいつらに地獄を見せてやる
けれど、そんなぼく達の決意は一人の男性の出現によって潰えることとなる。
緑翠
聖の許嫁であり、ぼく達の理想の男性像の一人
彼はあっという間に葎達をボコってしまったのだった。
チーーーーーン
「「面白くない」」
「いや、華依璃の君たちに対する評価は十分上がったと思うけど」
葎達を警察にたたき出し、聖の家で華依璃の手当をし、今日は此処に泊まろうという事に
なったのは今から3時間前。
遅めの食事を取り華依璃と蒼麗は別室にて就寝すると、ぼく達だけが居間に取り残された。
暇をもてあまし、けれど眠くもならない。
ただただ面白くない気分でぶつぶつ文句を言っていたら、ようやく聖の私室から出てきた
緑翠さんがぼく達を見てそう言った。
男の色香に加えて今まで艶事をしてきた人にだけ備わる妖しく淫靡な色香を漂わせる緑翠さん。
その姿には同性であるぼく達ですら思わず生唾を飲み込んだ。
はだけたワイシャツから除く白い胸元。
そこに散る紅い華は肌の白さと絶妙なコントラストを醸し出すと共に何とも言えない淫猥さを醸し出す。
世界の美女達すらも思いのままの壮絶な妖艶さがそこにはあった。
といっても、聖一筋の緑翠さんが相手にする筈もないが。
「「ぼく達の見せ場だったのに」」
半ば諦めた事だったし、相手が緑翠さんなら仕方ないと思う。
でも、せっかくの見せ場だったのだ。
それに
「「あの程度で華依璃の評価が上がるわけないし」」
散々華依璃の事を苛めてきたのだ。
ちょっとやそっとで華依璃のぼく達への評価が上がるはずもない。
思い切り拗ねていると、緑翠さんがぼく達の頭をポンっと優しく叩いた。
「ふ〜〜ん、華依璃の事が好きなんだ」
「「////////」」
「良い子だしな、あの子」
聖みたいなプライド高いのと普通に付き合えるしと呟く緑翠さんに思わず頷きそうになった。
が、すぐにハッと我に返る。
「「べ、別にあんなの好きじゃっ!!」」
「顔に書いてある」
「「うっ」」
「でも、一人の女性としての好きじゃないと」
「「っ?!」」
今度こそぼく達は固まった。
緑翠さんはぼく達の心を見抜いてしまった。
まだ直接話をして1日も経ってないというのに・・・。
そう・・・ぼく達は華依璃が好き。
でも、華依璃の事を女性として好きなのではない。
華依璃に対するこの気持ちは
「君たちの行動はある程度見て知ってるよ」
まるで姉の関心を引こうとする弟のようだ
ああ、緑翠さんには何も隠し通せない。
ぼく達は大きく息を吐いた。
いつの間にか華依璃への気持ちが変わっていた。
最初は気になる存在。普通ならそれは恋というものに変わるだろう。
けれど、恋に変わることはなかった。
華依璃のことが気になって、華依璃が自分達を見てくれるのが凄く嬉しくて、
華依璃が他の人と話すのがもの凄く嫌で
これは恋
普通ならそう
けれど、ぼく達はこの思いが恋とは違うと気づいてしまった
そう・・・ぼく達の華依璃への気持ちは
「恋ではなく親愛」
緑翠さんの言葉にぼく達は頷いた。
ぼく達の思いは恋ではない。
恋ではなく、大好きな姉を慕うような親愛の気持ちだ。
まるで瑠水姉様へ向けるような・・・
ぼく達にとって只一人身内の中で愛情を注いでくれた瑠水姉様
父様にも母様にも見捨てられたいらない子であるぼく達を力一杯愛してくれた
大切な大切な存在
そんな瑠水姉様への親愛の情と華依璃に向けるこの気持ちは同じ
「どうして?」
そう聞く緑翠さんの瞳は何処までも深かった。
まるで全てを見通すようなそこにはきっとぼく達自身が分からない事も見知ってしまうのだろう。
どうして?
そんなのぼく達にも分からない。
華依璃を姉のように思い慕うこの気持ち。
何時の頃からか産まれ溢れ出るこの気持ちが何処から来たのかは分からない。
何故恋心へと変化しないのかも不思議で堪らない。
華依璃のことが好き
でも、それは家族に対する好きだ
ぼく達にも分からない
でも、好きなんだ
華依璃にぼく達を見て欲しくて意地悪してしまうぐらい
葎みたいな奴に取られたくないぐらい
「大切にしろよ」
「「緑翠さん?」」
「何時までも意地を張ったり、気持ちを隠したり、高をくくっていたりしてると取り返しが付かなくなるからな・・・お前等はまだ大丈夫」
何処か遠い目をした緑翠さんが誰のことを言っているのか知るのはもっともっと後のこと。
でも、ぼく達も分かっている。
そろそろ華依璃をからかうのも潮時だ。
そう分かっているからこそ華依璃にパーティーの招待状を渡した。
そこで関係を修復しよう
そんな思いで渡したのだ
それに、華依璃のことを瑠水姉様に紹介したいし
勿論、すぐには関係修復なんて無理なのは分かっている。
それほど酷いことをぼく達がしたという事も理解してる。
最低で最悪で非道な事をしてきた事など嫌というほど知っているから。
それで許してくれ、関係修復してくれと言うのは虫が良すぎる。
自己満足であり、身勝手過ぎるというしかないだろう。
決して許されない行為の一つである苛めの原因を作ったぼく達を華依璃は一生許さないかも知れない
けど、それでも構わない
ぼく達は互いに話しあい決めたのだ。
色々と間違ってしまったぼく達
けれど間違った事に気付きどうすれば良いか知った今
もう遅すぎると目を背けてはいけない
気づいた今、それを断ち切るときだと
例えそれが自分のエゴでも構わない。
今度こそ、間違わない為に
あの時、華依璃に別の言葉をかけていたらどうなっていただろう?
もっと違った今があったかもしれない
意地っ張りでプライドの高いぼく達
もしあの時
『『ぼく達と友達になって?』』
そう言っていれば・・・・・
ぼく達は互いに顔を見合わせた。
「「頑張ろう」」
叶うか分からないが叶えたい想いの為に
けれど
そのパーティーに華依璃を呼んだことで
世界をも巻き込む運命の歯車が回り出すなんて思っても見なかった
第二章に続く・・・・