第二章−2







 開かれた扉を潜り抜けた瞬間、光のシャワーが私を襲った。


 チカチカする目を懸命にこらして中を見てみれば豪華なシャンデリアが天井から垂れ下がり周囲を照らしていた。
 また、壁に設置された複雑な形をした照明の淡い光が、幻想的な雰囲気を醸し出している。

「……凄い」

 正面にある階段を見れば、話でしか聞いた事がないような紅い絨毯が敷かれていた。
 その上を、招待客達が優雅な足取りで進んでいく。上を見上げれば、階段を上った先に大きな扉がある。

「あそこがパーティー会場?」
「正確には入り口ですわ。あの扉を開けた後は暫く廊下が続き、更に扉をくぐって右に50歩、左に30歩進んだ
先にある扉の向こうにある大広間でパーティーが行なわれているとの事ですわ」
「……詳しいね」
「私の家の情報網を駆使すればこの程度」
「聖、凄い!」
「まあ、蒼麗!こんな事ぐらい大した事ではないわ、けど嬉しいですわvv」


 淡々と述べていた聖は、蒼麗の感激した言葉にポッと頬を赤らめてそう言った。
 流石は蒼麗。
 何時も冷静沈着な聖を照れさせるとは……。
 いや、元々聖は蒼麗にベッタリなのだから当然といえば当然の事だろう。

って、私も蒼麗にベッタリだから人のことは言えないか。


陰宮クラスで蒼麗の事が嫌いな子は今は一人もいない。
皆、複雑な事情を抱えている食えない奴ばかりだけど、そんな自分達と殴り合いしてでも自分達自身を
見てくれた蒼麗を心から好いている。


それは、聖も同じ。


蒼麗の監視として来た聖もまた、蒼麗の優しさに魅入られた子の一人だ。


「にしても、華依璃ちゃんよくオーケーしたね」
「しないと呪われそうでさ」

 那木と椎木の瞳が気になりついオーケーしてしまった私だが、勿論すぐに我に返って断ろうとした。
 しかし、もはや拒否は受付けないとばかりにあのツインズは高笑いしながら立ち去っていった。
 強引に招待状を押しつけて。

「しかも、家まで迎えがよこされるし」

 迎えの車までよこされれば乗らずにはいれないだろう。
 しかも、その車の中には蒼麗達が既に乗っていた。

「っていうか、華依璃ちゃんの家の方が遠いのに先に私達の方を迎えに来た時点で那木君達は本気だよね」

 華依璃が逃げられないように先に餌となる蒼麗達を載せた所を見ると、彼らはかなり出来る。

「けど、なんだってあの二人はあんなにも華依璃ちゃんに執着するんだろうね?」

 長い廊下を歩きながら蒼麗が呟く。
 その言葉の意味は私の脚を止めた。

「執着って……」
「勿論、両方の意味で。だって、あの二人ってば何時も華依璃ちゃん華依璃ちゃんだもの」
「面白いおもちゃとでも思ってるんだろうね」
「う〜〜ん……私は違うと思う」
「え?」
「いや、これは推測だけどね」
「あ〜〜、来た来た」
「よく来てくれたね聖様、蒼麗vv」

 見れば、パーティー会場の入り口である扉の前に立っていた那木と椎木が此方へと駆寄ってきた。
 そして聖と蒼麗の来訪を甘い笑顔を浮かべて喜んでいる。

  が、ちょっと待て。

「いやぁ〜〜、やっぱり聖様は綺麗だねvvそのドレス、凄く綺麗だよ」

 聖が着ているドレスは、上品さの中にも華やかさを含んだ淡い青色のドレスで、聖の髪と瞳の色を
引き立たせた素晴らしいものだった。
 しかも、ああいうドレスは普通の人ならば寧ろ着られてしまうものだが、聖の場合は見事に着こなしている。

「蒼麗も凄く可愛いよvvこれなら青輝様もお喜びになられるね!」
「し、椎木君!シィ〜〜!!って、何言ってるんですかっ!!」

 蒼麗が顔を真っ赤にして怒るが、それすらも楽しそうに那木と椎木は対応する。
 それに聖も加わりその場は笑顔と笑い声で沸いた。

「って、ちょっと待てあんたら。人を呼んでおいて私だけは無視?」
「「あ、居たんだブス」」
「帰る」
「「ちょっと待って!」」

 此処まで馬鹿にされてパーティーに出る気はない。
 元々私はパーティー自体に興味がなかったのだから帰ったところで寧ろ清々する。
 そうしてくるりと方向転換した所、後ろから那木と椎木に肩を掴まれた。

「せっかく来たのにもう帰るのか?」
「せっかくのパーティーなんだから楽しまなきゃ♪」
「あんたらの顔を見て楽しめるわけない」

 でなくとも、こんなブサイク且つ標準の体型よりも2周りは軽く大きな巨体が可愛らしいワンピースを
纏っている異様な姿で周囲の目を引いてるのだ。
 はっきりいってこれ以上見せ物になる気はない。

「ふ〜ん、ぼく達と一緒は嫌?」
「けど残念」
「「だって華依璃は今夜ずっとぼく達と一緒に遊ぶんだからね!!」
「は、ってきゃあ!!」
「華依璃ちゃんっ?!」
「ちょっ!華依璃を何処に連れて行くつもりですの?!」
「勿論、ぼく達の遊び場だよっ!」
「あははははそ〜れ!!」

 私の重たい体を持ち上げた椎木が楽しそうに走り出す。
 普通の女性ならば「きゃっvv」といって恥ずかしがりそうだが、悲しいかな。
 椎木の私の抱き方は完全な荷物運び。これでどうやってトキめけというのか。

「ってか離せ馬鹿っ!!」

 母に慣わされた得意の護身術で椎木の体に一撃を加え自由を取り戻す。
 すぐに那木が手を伸ばして捕まえようとしてくるが私はそれを交わし一目散に走り出した。

 右に左にまた右に。走り続け、時には扉の奥に隠れながら那木と椎木をやり過ごす。


 しかし、道をきちんと把握していなかったのと、この屋敷が予想以上に馬鹿でかかった事が災いし、
気付いた時には自分が何処にいるかさえ分からなくなっていた。





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