第三章−3







 あるとき、母が酷い風邪を患い殆ど食事を取れなくなった。
 みるみるうちにやせていく母。
 経管栄養で栄養を取ってはいたが、それにも限度がある。
 栄養師の指示を受けた家政婦さんが色々と試行錯誤するが、全く手をつけられない日々。


 そんな状態に当時まだ小学校にも入っていなかった私は家政婦さんに頼んで一緒にご飯を作り始めた。


 最初に作ったのはお握り。
 普通なら全く食事の出来ない人に出す物ではない。
 しかし、それを持ってくと母は美味しい美味しいと全部食べてくれた。


 それから私は家政婦さんに習ったり、近所の人達に料理を教わったりと今では多くの料理が作れるようになった。

「ボク、アスパラの肉巻きが食べたい」
「ボク、卵のココットが食べたい」
「ご馳走してもらう身で注文をつけるなっ!!しかも、借りるのは蒼麗の所の台所なんだからねっ!!」

 此処から一番近いのは学園内の蒼麗と聖の寮だ。
 が、聖は普段から寮内のレストランを利用している為調理器具は殆ど揃ってはおらず、常日頃から料理をしている
蒼麗の家にお邪魔することになった。

 が、いくら何でも材料はこっちで持って行こうという事になり、近所のスーパーマーケット買い物に来たのだ。

 しかし、一生懸命に材料を探してくれる蒼麗達に比べてこのツインズは何もしない。

「「お腹すいたお腹すいた」」
「少しは手伝えっ!!何ならお総菜コーナーでお弁当を買いなさいよっ」
「「手作りが良い」」
「なら黙ってて」


 ってか、何時も何時も人のことを馬鹿にする此奴等にわざわざ料理を作ってやろうとする私って
どんだけお人好しだろうか。
 しかし、もはや数え切れないほどこちつらにお弁当を作り続けてきた身であるからには、ここらで
突然作らないというのも・・。
 いや、そもそも初めての時にあんな顔を見せたから・・。
 結局、二人を突き放せないのは私の弱さなのかも知れない。



「華依璃ちゃん、これなんかお得みたいよ」

 蒼麗が持ってきてくれたのはジャガイモが2キロで500円という超格安の商品だった。
 私は即座にそれを購入する事を決めた。
 2キロなんて多すぎではないか?と思うだろうが、以外にこのツインズは食べる。
 運動の部活に入っているせいか、それとも日々鍛錬を欠かさない為か、とにかく食べるのだ。


 と、そこで私は蒼麗が持っているカゴに気付いた。

「あれ?蒼麗も買うの?」
「あ、うん。私の家全然食料がないの。昨日で使い切っちゃったvv」

 見れば、野菜やら肉類やらが沢山入っている。

「お米とか小麦粉類も書いたんだけど、持って行けなくて・・」

 因みに此処は都市でも有名な激安スーパーで、お米が10sで1980円という破格の値段を提示しているのだ。

「宅配は無理なの?」
「台風が来るから、今輸送の予約が凄いみたい」

私は「あぁ!」と頷いた。

 実は、明日ぐらいから台風が来る。
 それも、風速が早いのと遅いので3つぐらい連続してた。普通なら異常気象と呼ばれるそれだが、
この時期は仕方ない。
 船なども台風と台風の切れ目に出発し、飛行機はその殆どを休航とする。
 また、学校も台風が通り過ぎる10日目までは完全に休みとなる。
 時期的には一種の秋休みだが、休みといっても何処に行けるわけでもなく、ただただ台風が通り過ぎるのを
待つだけの退屈な日々だった。

因みに、こういう時には災害防災グッズを売る店はかなり儲かるのが何時ものことで、
今日も近くの防災グッズ店は大賑わいだった。

「それじゃあ、買う必要があるね」
「うん」
「なら、うちの運転手さんを呼ぶよ」
「え、でも」
「大丈夫。運転手さんはうちに住み込みの人で、防災グッズとかは既に買ってあるし、食料とかもバッチリvv」
それに何かあれば来ると言ってくれているから、たぶん大丈夫だろう。
「と言うことで、早く買っちゃおうvv」
「う、うん!」

 そうして蒼麗はお米を20s分と小麦粉1sの袋を5つ、塩や砂糖、醤油、味噌、酢、油などの調味料類や
非常食の缶詰を10個、色々なカップ麺が12個入った箱を二つ、それに2リットルの水のペットボトルを5本などを買い足した。

 その間に、私も材料を色々と買う。

「あれ?聖も買うの?」
「レストランではお菓子類は出ませんから」

 何気にきちんと食事が決められている聖の寮では、他に食べたければ自分で買うしかない。
 よって、以外にもお菓子好きである聖は色々なお菓子をカゴ一杯に入れ、更には果物やお総菜の缶詰を2、30個、
その他にジュースやお茶の大きなペットボトルを別のカゴへと入れていた。

「聖、買いすぎじゃない?」

 海苔を手に蒼麗が言うが、聖は気にしない。

「寧ろ足りないぐらいですわ」
「そ、そう・・」
「「華依璃、早く」」
「はいはい、今行くって」

 会計を済ませ、運転手さんを携帯電話で呼び出し私達は蒼麗の家へと向かった。









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