第八章−1






  この人は一体誰なのだろうか?


 突然現れた自分以外の人に私は混乱した。

 この人は私に害を為す人ではない。直感的にそう感じてはいたが、彼女の口から出てきた三津木さんの名や、
この突然の展開について行けなかったのだ。

 というか、この人は三津木さんと出会ったのだろうか?


  でも、どちらの三津木さんと?


「本物の方ですよ」
「っ?!」

  私の考え読まれた?!

 すると、女性がクスクスと笑ったのが分かった。

「そんなに不安そうにしなくて大丈夫です。三津木の偽物も既に倒しましたから。三津木本人が」

 つい先程の事です。
 そう言う女性を私は呆然と見つめた。

 すると、いまだ一言も口を開かない私を不審に思ったのか、女性が私に話しかけてきた。


「怖い目にあったのですね。三津木も本当なら一緒に来るはずでしたが、景の方で問題があったらしくそちらに行っています。
私は貴方の保護と海守蝋を取ってくる事になってましたが・・・貴方が持ってきてくれていたみたいですね」


 そうして女性は私をのぞき込むように近づいた。
 丁度女性からは私は逆光になっていて顔が見え辛いらしい。
 少し眩しそうにしながらも私を安心させようと女性は少しかがみ込む形で私の顔を見つめた。




「あなたは・・・」


 息を呑む音がはっきりと聞こえた。
 だが、そんなものを聞かなくても女性が目を見開き驚愕していく様を私は真っ正面から見つめた。


 それは・・・景さんと三津木さんの時と同じ。
 私を初めて見たあの二人はこの女性と同じようにまるで信じられないものでも見たかのように驚いていた。
 そう・・まるで幽霊でも見たかのように。


 私は女性の瞳の中に宿る驚愕と恐怖、そして・・微かな喜びみたいなものを見た。


「・・・海璃」

「え?」


 まさかこんな所で聞くとは思わなかった。

  なぜなら、その名は那木と椎木の


「どうして貴方がその名を」

 私は女性から後ずさり厳しく指摘した。
 まさか偶然の一致?海璃は海璃でも別の誰かだろうか?


 いや、違う。
 この女性は私を見て海璃と呟いた。


 私は海璃ではない。


 けれどそれでもあえて初対面の私を見てそう呼ぶのは、私がその海璃によく似ているからだろう。
 全く似てない相手に別の人の名前を呼ぶなんて普通はしない。
 那木と椎木から見せられた写真の海璃は私とそっくりだった。
 となると、この女性が呟く海璃もまた私にそっくり・・・いや、もしかしたらこの女性の呼ぶ海璃と那木達の
姉の海璃は同一人物に違いない。

 そこで私は景さんと三津木さんの反応に思い当たった。
 彼らも私を誰かと見比べている節があった。


  あれは、海璃とではないだろうか?


 あのまるで死んだ相手でも見たかのような目つき。
 海璃は既に死んでいる。私に私そっくりな海璃の姿を見たとなればその反応にも説明が付く。



 この女性も含め彼らは私に海璃の姿を見たのだ。


 だからあんなに驚いたのだ。


 既に死んだ相手にそっくりな私が突然現れたから。
 それも海で死んだ相手が海の中で漂って居た。


 下手をすれば本人が生きていたと思ったかもしれない。



    ・・・・・って、ちょっとまって



  では、この女性と彼らは一体何処で海璃に出会ったのだろう?



 女性はせいぜい17,18には見えない。



 また、三津木達も二十代にしか見えない。



 もし、海璃がこの世界に過去にやってきたとしても、三津木さん達と出会える筈がない。



 なぜなら、三津木さん達が産まれる前に海璃は死んでいるのだから。




 海璃が死んだのは100年も前の事である。





 どう頑張っても30年も生きていない三津木さん達が出会える筈がない。













                 ――普通の人間なら――









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