入学式は波乱に満ちて
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青銀の瞳とアッドアイの瞳が交わる。



青輝――それは、自分達とは両親達が親友同士である事から生まれた頃から幼馴染として付き合っている友人の一人の名。
そして現在、他の幼馴染達と共に自分を追いかけて此方にやって来た挙句、聖華学園の生徒会にて副会長をしていたりする。
つまり、聖華学園を牛耳る一人でもあった。


とは言え、自分達に関しては彼は幼い頃からの幼馴染+友人、または聖華学園の支配者という枠だけには収まりきらない。
何故ならば、彼は蒼花にとっては彼女を守護するものでもあるからだ。そう――彼は、蒼花を守る護衛であり、また彼女に付き従う
護衛達の中では筆頭とも言うべき存在であった。護衛、いや、その他の幼馴染達の中でも5本の指に入るほどの実力者である彼は、
常に蒼花の傍に侍りその身を守る。
それも全ては、蒼花は常に危険にさらされている事に起因する。


その事の始まりは蒼花が2歳の時に遡る。
数十年前――蒼花がようやく2歳の誕生日を迎えると同時に、幼馴染達の中でも最も最強にして最恐、そして非常に優秀で
有能なあの人と婚約した。その事によって、あの人の妻の座を狙っていた者達や、また蒼花を妻にと望んでいた者達から
その命を、その身を狙われるようになってしまった。

日をおかず、時をおかずに送りつけられてくる数多の刺客。それらを撃退する為に、両親やその周囲は蒼花に武術や知識を
叩き込むと共に、幼馴染達の中でも特に才能のある者達に蒼花の護衛を依頼した。
いや、命じた。それらの人選は、主に武術と頭の回転の速さ、そして裏に精通し
他者を出し抜く策略家の度合いなどで決められた。



勿論、幼馴染達には皆それらの要素はあるばかりか、その能力の高さ、そしてその他の才能のレベルの高さに
人選はかなり難航したという。

が、その中でも特に優秀で年齢的に幼すぎない者達、そして常に傍にいられる者達を両親達は選んだのである。


青輝はその中でも筆頭――つまり、そんな優秀な他の幼馴染達を従えられるだけの圧倒的な頭脳と能力、そして凄まじいまでの
戦闘技術と潜在能力を宿していると言う事である。


それこそ、青輝は周囲が目を見張る程に非常に優秀だった。蒼花の許婚であるあの人に次ぐほどに。
頭脳も、知識も、武術も、その他多くの才能恵まれているばかりか、その絶対的なカリスマ性と統治能力、周囲の心を掴む能力と
人望の高さも他者とは比べものにならないほどのレベルを有していた。更に、政治能力などの面にも非常に優れている。

また、その性格も冷静沈着怜悧冷徹であるばかりか、時には冷酷にもなれるという、それこそ統治者としての才能にも恵まれていた。
――但し、それが行き過ぎて色々と問題も出てはいるのだが……何故なら、青輝は同時にとっても鬼畜で腹黒でもあるから。




お陰で、他者を出し抜いて陥れる事になどこれっぽっちも罪悪感なんぞ抱いていないかのように見える。
というか、青輝を出し抜く相手がどれほどいるか。彼に歯向かう者達は悉くその掌で弄ばれ利用され、抹殺される。


そんな非道さも持ち合わせた彼。だが、そんな彼だからこそ、極悪非道な奴等から蒼花を守りきれる。
そして、仲はすこぶるよく、また相手の事をかなり知り尽くし、強い絆で結ばれているものの、凄まじく個性が強くて同時に
扱いにくくもある護衛組みの幼馴染達を抑え付け、上手く連携させて蒼花を守る事が出来ているのである。
勿論、幼馴染達は護衛以外も含めて蒼花を守る事には命をかけている。
有事や本当にやばい時にはそれこそ本能に刻み込まれているかのように、
見事な連携でもってターゲットを始末する事が出来る。しかし、それ以外では幼馴染達は悠々自適に好き勝手、
それこそ気ままに動く。連携なんて殆どない。面白い事が好き、騒動が大好き、それを引っかきまわして遊ぶのが最高!!と
言わんばかりに好き勝手にしている。


それらを、大した有事ではないものの、連携して動かなければならない時に青輝は鶴の一声で従わせてしまうのだから凄い。



いや、だからこそ彼は筆頭の座にいられるのである。


そして、彼が蒼花を守るという事実に、周囲は心配しながらも心の奥底ではこれ以上ない位に青輝を信頼しつつ、
安堵しているのである。



また、そんな優秀な彼は当然ながら女性にはとても人気が高い。
今年で17歳になる青輝だが、昔から多くの女性達が彼に恋焦がれてきた。
そして多くの縁談が青輝の元に舞い込んできた。自薦他薦問わず、娘達から直接な事もあれば、その周囲から是非とも
娘や妹、姉、姪を妻にと望んでくる。


麗しくて優秀な他の幼馴染達にも縁談の数は凄まじいが、その中でも頭一つ超えるまでに来る沢山の縁談の数々は、
それこそ専用に設置した部屋に入りきらずに雪崩を起こすほど――しかも、今もそれが持続しているのだから凄い。


だが、そんな彼女達の願いは叶わないだろう――正妻の座に付く事に関しては。
そう――彼女達に残されているのは、側室の座しかない。


何故なら――青輝には、既に許婚がいるからだ。



そう――自分(蒼麗)という許婚が………



青輝の許婚であり未来の花嫁となるのが自分であるという事実に、蒼麗は改めて心が重くなった。


昔から美しく麗しかっただけではなく、それこそ非常に聡明で文武両道だった青輝は、何を間違えたのか幼かった
自分の許婚となった。当時、青輝は8歳、蒼麗が3歳になったばかりに、双方の両親が勝手に決めてしまったのだ。
そうして、自分は17歳で青輝の元に嫁ぐ羽目となってしまった。とは言え、小さい頃は何時も青輝の後ろについてまわり、
蒼花と離れて暮らす事になった後も、久しぶりに一緒に過ごせる時には何時もちょこまかとくっついていた。



但し、それも7歳の頃まで。
いや、本当の事をいえばその前から少しずつ自分は青輝から離れていった。
しかし、7歳――自分が家を出た頃を境に、青輝とは会う事は殆どなくなった。
勿論、自分を連れ戻すために青輝が来てしまって必然的に会う羽目になった事は何度もある。
だが、それでも出来る限り逃げ続けた。可能な限り言葉を交わさないようにした。

許婚という立場から、公式の場で必ずしも共に出席しなくてもいい事から、公の場に許婚として現れる事も只管避け続けて。





普通の者ならば信じられないと思うだろう。なんて酷いと思うだろう。



それこそ、馬鹿だと罵られるかもしれない。





落ちこぼれで無能な自分とは違い、とても美しく頭も良い優秀な人




そんな彼が、自分と婚約している。普通ならば絶対に信じられないだろう。


故に、多くの者達が言う。



なんて不釣合いな婚約だろうと



そして多くの者達が青輝に同情する



あんな無能を、幾ら親の命令だからといって妻に迎えなければならないなんて――と



そう、青輝が自分を許婚としているのは全ては親達の約束の為



この婚約は政略的なものからなる



多くの者達は言う




せめて、その無能が少しでも双子の妹姫の優秀さと美貌を兼ね揃えていれば――と




妹とあの最強の幼馴染の婚約はなるべくしてなったもの。
それこそ、運命といっても誰もが納得するほどに相応しい婚約である。
美しく優秀な妹と、それこそ幼馴染達の中で最も美しく優秀な彼は正にお似合いの二人である。



こんな………違和感ありまくりの不釣合いな自分達とは違って。




本当は知っている。本当は分ってる。青輝との婚約の間違いに。





だから決めたのだ。





こちらに来て、苦しいけれど充実した生活の中で




多くの事を見聞きし、勉強し、沢山の事を知り考える中で








青輝との婚約を破棄しようと









この婚約を続けてはいけない





この婚約自体を抹消しなければ




その為には、何としてもこの婚約を破棄しなければ






そうすれば、きっと何もかもが上手くいく




全てが良い方向にいく





きっと、青輝も幸せになれる




皆が幸せに





蒼麗の脳裏に、それらは思い出されていく。




青輝との婚約についてなされた罵倒の数々、嫌がらせ、嫌味、苛め





陰口も多かった。




そしてそれと同じ位に沢山の噂を聞いた。




根拠のあるもの、ないもの




けれど、自分は知っている。





その噂の中でももっとも驚き困惑してしまったその一つは絶対的な根拠に基づいていることを







その他の多くの――根拠のある噂の数々の中でも……もっとも自分に深い罪があるその噂






青輝は、本当は――






だから、婚約を破棄しなければならない。





それはとても悲しい事だけど






でも、きっと彼ならばもっと良い人が見つかる。


いや、彼ならばきっと………




それは大きな混乱を齎してしまうかもしれないけれど……けれど、挑戦する事もなく諦めてしまうのは悲しすぎる




相手の人にとても迷惑がかかってしまうのは難点だが……



しかし、どちらを選んでもきっとその人は幸せになれるから





だから、自分はその幸せを祝福しよう






その為にも、自分は婚約を破棄する














しかし――













そんな深い思いにも、強い決意にも関わらず、何でかどうしてか婚約破棄に
関して殆ど進んで居ない今日この頃。




お陰で、今も自分と青輝は許婚という悲しい現実の真っ只中であった。




………って、本当に何時になったら婚約を破棄出来るんだろう……







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